第一章 トラブルは横暴幼女と共に

「向こうを出て二日。この私が、何故こんな辺鄙な場所にある都市国家に出向いている?」

 ため息について咎められるかと身構えたが、そうではなかった。

 安堵の息をつくこともできないバロックが心音を整えていると対面の男が促す。

「答えたまえバロック。喋る事を許可しよう」

「…………視察、です」

「半分正解で半分間違いだ」

 男は居住まいを直して続ける。

「ふむ……では質問を変えようバロック。君はどこまで聞いている」

──どこまで、聞いている……?

 返す言葉が定まらない。

 バロックは困惑する。

 その問いは、まるで今回の旅には視察派遣という仕事を大義名分とし、別に遂行しなければならない目的があるような言い方に聞こえる。

 王都を出る一週間前にバロックが聞いた旅の目的は、年に一度必ず行われる追加予算の裁定基準を付ける為のものだと。アザリアの担当は出発の一週間前に急遽変更されたと。そして同行している男の行動を監視しろと。

 与えられた情報はそれだけ。

 それ以外は何も知らない。

 しかしながら、これはチャンスだとバロックは思う。

 この旅に上から与えられた情報以外の目的があるのだとすれば、逆にそれを知ることができるかもしれない。対面の男が何か探りを入れてきているのは間違いない。

 であれば、

「私は視察派遣のことしか伺っておりません」

 男の言葉を利用して、こちらが探りを入れることもできる。

「君は確か、東の都市国家関連の部署の所属だったね」

 男は道中、バロックから聞いた身の上話を思い出して口走る。