第一章 トラブルは横暴幼女と共に

 王都から派遣された使者なのだった。

 今回の旅において、バロックが与えられた仕事は二つあった。

 まずは視察。

 これは、年に一度必ず行われる追加予算の裁定基準を決めるためのものだ。

 視察は各都市国家の担当人員が現地に出向いて行うもので、本来ならその担当者が行くはずだったのだが一週間前に失踪。上からの命により急遽、バロックが臨時担当に回されたのである。

 そしてもう一つ。

 同行者の監視。

 この勅命を受けた時、はっきり言ってバロックはまるで訳が分からなかった。

 なぜ同行者の行動を逐一見張らなくてはならないのか。

 そもそも、もし何か疑わしいことがあるのならこの男をこの仕事自体から遠ざければいいだけの話だ。

 とは言っても、上層部直々の命令である。それを断る権限なんてバロックは持っていないから従うしかない。

 監視をしなければならない理由について上層部から詳細な説明はなかった。

 知らない事があると知りたくなるのが人の性。

 王都から出発してから二、三時間は対面に座す上司の事情を探ろうと試みていたバロックだったが、相手の反応が沈黙か黙れという一言だけだったので途中で諦めた。

 バロックにしてみればこの臨時担当の仕事はいい迷惑だ。気難しそうな上司と二人きりで箱馬車に詰められて、機嫌を伺いながら重い空気を吸うしかない。

 不満に満ちた吐息をなるべく小さくして吐き出すバロック。

 それに気付いたのか、対面の男が不機嫌な様子で口を開いた。

「バロック」

 どぎり、と跳ねる心臓。