第一章 トラブルは横暴幼女と共に
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縦揺れ、横揺れ。
「ここは随分と道が悪い」
起伏の多い道を走る箱馬車。それに乗った男が窓の外を見ながら呟いた。
僅かに開いた窓から入ってくる風が、男の波打つ茶髪を撫でていく。
聖職者が着用する黒衣、カソックと呼ばれる衣服の袖から伸びた腕は細い。窓の桟を指で何度も叩いているあたり、機嫌が悪いと見て取れる。色白というか、もはや蒼白とも言える顔の眉間に寄った皺が不平不満の具現に拍車をかけていた。
「仕方がありません。アザリアは山間にありますので」
向かいに座した青年がなだめるように言うが、
「黙れバロック」
そんな気遣いを一蹴。
失礼致しました。という一言の後、バロックは口を噤んだ。
走る馬が時折甲高く嘶く。
二人が搭乗したこの馬車、猛禽類の翼を模した紋章と合わせ、豪奢な装飾が外面を覆い尽くしていて、市街地のパレードにでも出てきそうな印象を受ける。
そんな馬車が山道を駆け抜けるというのも場違い極まりない話ではあるが、彼らには絶対にここを通らなければならない理由があった。
対面にいる上司と同じカソックに身を包んだバロックは、外を見やりながら胸中で呟く。
──アザリア、か。山の都市国家は初めてだな……。
見知らぬ土地とは冒険者の心を駆り立てるものだ。
出発前にかき集めた予備知識によれば、鉱物の採掘が盛んな都市だとか。
ただ、今回に限っては観光をしている余裕もなければ、気楽な旅人気分を満喫している暇もない。むしろ今すぐ帰りたい気持ちでいっぱいだった。
元よりバロックは冒険者などではない。