第一章 トラブルは横暴幼女と共に
イアンは最初から、リッキーに修繕費の催促がいかぬよう支払いをしていた。
それどころか、支払うべきはずの金額よりもかなり多めに金を街に渡していた。寄付金と称して。
財政難に苦しむアザリアの街からすれば、イアンのそれは救いの手にも見えただろう。実際のところ街の破壊に加担しているような立場であるにも関わらず、である。
アイリーンの反応を鑑みてもそれは顕著で、行政の中心でも破壊の元凶はリッキーにあると認識されているのだった。
つまりイアンは、街にも借りを背負わせている、と。そういう事になる。
ともすれば、例えイアンが街に害をなしていた事が明るみに出たとしてもアザリア側は彼を無下に扱う事はそうそう出来ない。ここまで来ると闇医者業を営んでいる事も暗黙的な了解がありそうで恐いところだ。
現状を直視し、顔を青くするリッキー。
しかし目下の問題は別にある。
これまでの騒動で策略的に発生してしまったイアンへの半強制的な借りについては、取り消せといったところでどうにもならないので仕方がないとして、今日の騒動については手を打たないとまず間違いなくイアンへの借りの加算があるだろう。加えて女門番アイリーンの話を聞くに、お偉いさんの関係で今日は本気でまずいらしい。
──…………食糧買いに来ただけなんですけど。
そんな事を心中で呟くが、過去に五階建ての宿を殴り飛ばしたり、中心街にある文化財を粉々にしたりといった、自分がこれまでに取ってきた行動を改めて振り返ってみると罪悪感がこみ上げてきた。
今この場において職無し金無しの自分に何ができるのか。