第一章 トラブルは横暴幼女と共に
「え? そうね」
「俺さぁ、払った覚えがねえんだけど街から金の請求が来ないのって……?」
即答。
「ああ、イアンが払ってるからね。アンタどうせ払えないでしょ?」
瞬間、ガキンとリッキーが凍りついた。
視界の片隅には眉根を寄せて嘲笑うように表情を歪めるイアンがいる。この瞬間、リッキーは完全に事態を把握した。
このモグリは物質的な利益を求めている訳でも無ければ金銭的な利益を求めている訳でも無かった。イアンは、
──こいつ……俺に借りを押し付けやがった!
今日以前に起きた騒動、これまでのいざこざの金銭的負担を全て自分で請け負い、リッキーに修繕費の催促がいかぬよう支払いを済ませていたのだ。
しかもそれは善意からではなく、リッキーに精神的な敗北を植え付けるため。
知らず知らずのうちに借りを作っていたなんて笑えないにもほどがある。しかも相手が相手だ。恐らく、利息はバカのように付くだろう。
それこそ一生かかっても返せない程の。
「別に気にしなくていいんだぞ脳筋。私が勝手にやった事だ」
仏頂面でしれっとイアンは言うが、副音声がしっかりと聞こえてくる。
「お前はいつも通り生きていてくれればそれでいいんだ(副音声:何が何でもお前から金を搾り取ってそれこそボロ雑巾のようになるまで取り立ててやるからな)」
その辺の借金取りよりもタチが悪い。
こんな事ならいっそ殺してくれとリッキーは思う。
しかしながら、実のところイアンが借りを背負わせた相手というのはリッキーだけに留まらなかった。