第一章 トラブルは横暴幼女と共に
ただ、アイリーンとイアンのやりとりから読み取るに修繕費の何割かは街が負担していたようだ。では、残りの何割かは一体誰が?
そこまで考えてリッキーは思い出す。
この場にはしこたま金を持っている人間が一人いる事を。
リッキーは忘れていた。奴が医者である事を。しかもモグリという法律無視のなんでもありな立場であるという事を。
イアンは医者(モグリ)である。
そういえば、いつぞやにどこぞの大臣から法外な医療費を徴収していた場面に出くわした事もあったとリッキーは思い出す。
イアンは医師として世間に認められてはいない人間だ。
ただ、腕の方は正規のそれを軽く上回るし、最近流行りの病についても独自で研究しているとかなんとか。そんな事情もあって外法と知りながらも贔屓にする者の中には富豪も多く、結果として大金をふんだくって保持しているという訳だ。
このことから、イアンが修繕費の何割かを負担していた可能性が考えられる。
しかし、もしそうだとしたらなぜイアンだけが支払いをしているのか。
イアンは、自分に不利益が生じる事に関してはとにかく避ける人間だ。そんな人間が同罪のリッキーを差し置いて一人で修繕費の支払いを済ませるなど、イアンの素性を知っている者であれば何か企んでいるのでは、と勘ぐってしまうというもの。
そもそも、修繕費の支払いが必要であれば街側から通知なりなんなりがあるはずで──
「まさか……」
何かに気付いたリッキーの表情が強ばる。
そして恐る恐るアイリーンに尋ねた。
「…………な、なあ。街の修繕費って俺も払わなきゃならんはずだよな?」