第一章 トラブルは横暴幼女と共に
この二人、前述した通りわずか二日前にも同じようにバッタリと遭遇し、そして同じように口論を繰り広げていた。
端的に言えば、二人はとてつもなく仲が悪かった。
「あーあーあー見たくもねぇ顔見ちゃったよー」
明確な因縁など特には無かった。
「それはこちらの台詞だ」
決定的な理由すら元より存在しなかった。
「どうしてくれんだよ眼球汚れちまったぞバカヤロー」
「それならくり抜いてやろうかぁ?」
そこにあるのは、何もかもを超越した『生理的に受け付けない』という子供染みた主張による対立。
つまり、ただ単純に気に入らないのでいがみ合っているだけなのだった。
そしてそんな二人のフラストレーションは口論だけで留まる訳もなく、暴力という形で、しかもよりにもよって街の破壊を伴って顕現される。
「テメエが居なくなりゃあなー、綺麗さっぱり元通りなんだよ」
「じゃあ、お 前 が こ こ か ら 居 な く な れ」
リッキーが惣菜店の壁に手をかけた直後、袖から覗く腕にはち切れんばかりの血管が浮かび上がり、奇怪な音を立てた。壁に指がめり込んでいく。徐々に、深々と。
その光景を直視した惣菜屋の店主の脳裏には、嫌な予感が過っていた。
木と石でできている店の大きさは、高さ・横・奥行それぞれ五メートルを優に越えている。収納した調理用の器具や食材の重さを加味すれば重量は一トン近くあるはず。
元よりこの店は小さな家として使える建物だ。基礎を簡略する臨時家屋とはわけが違う。一般住居と同等のそれである。土台だって頑丈に造られていて。