第一章 トラブルは横暴幼女と共に
ワイシャツの上から被った袖付きの黒いポンチョ。首元のボタンは一番上までしっかり留められていて、皺のないシンプルなグレーのスラックスは誠実ささえ感じる。
これだけ見ればなかなか上品な印象を受けるのだが、頭髪の銀色と物憂げな瞳がそれら全てを打ち消していた。
手元の紙袋から飛び出たパンを見るに、買い物途中か。
「ついでに街から……人生からも退くか脳筋?」
と、続けて銀髪男。
外見にそぐわない好戦的な発言に、リッキーと銀髪男の間にいる店主は困惑の表情を浮かべてオロオロと右往左往する。
「なんでここに居んのかなキミィ」
引きつるリッキーの口元。
案の定、知った顔だった。知った顔だったのだが、分からない。なぜこの男がこんな人の目につきやすい大通りに出てきているのか。
そしてそれは銀髪男の方も同じだった。
分からない。何故リッキーがこんな所にいるのか。つい二日前にもこうして睨み合っていたのに、どうしてこんなにも早いペースで街に降りてきているのか。
ぴくぴくと口の端を震わせながらリッキーが煽る。
「医者は医者でもモグリは暇なのかなあ、イアンくぅん?」
銀髪男イアンも条件反射的に煽る。
「察しろ、買い物だ。どうやら眼球まで筋肉で構成されているらしいな」
「んだとコルア。テメエの持ってるパン食ったろうかコルア」
「なんだお前、恵んで欲しいのか? 与えてやってもいいぞ。ただし、跪(ひざまづ)いて乞え」
双方、こめかみに青筋を浮かばせながら不毛な応酬を繰り返す。