第一章 トラブルは横暴幼女と共に

 ただ、厳密にいえば全くの無職というわけでもない。

 住まいの裏にある山で狩猟をし、獣肉を売って生計を立てているとでも言っておけば、多少なりとも聞こえは良いだろう。いわゆる狩人である。季節限定ではあるが。

 そんなリッキーが、どうしてアザリアの街に訪れているのか。

 理由は一つ。

 例の桃髪幼女が消費してしまった食糧を補充するためだ。

 ここアザリアの街は、リッキーが住まう山小屋から一番近い都市国家。

 物資の流入ルートが確立されたアザリアは山間にありながら海産物の入荷も盛んで、山暮らしを営むリッキーにとっては自足できない食材を手に入れる事ができる貴重な場である。

 家から近いということもあって買い出しには度々訪れているのだが、しかし今日ばかりは気乗りもへったくれもない。

 もう一度財布を開いて中を覗いてみる。

 紙幣が二枚と以下略。

 来る前に一狩り行っておくべきだったかと考えもしたが、六季あるうちの一つ、春にあたる現在は狩猟に向いた季節ではない。

 理由は二つ。

 まず一つ。冬眠から明けたばかりの獣類の多くは、脂も旨味もなにもかもが無くなっている状態である場合が多いこと。

 二つ。春は市場の換金レートの動きが鈍いこと。

 中には肉が柔らかくなり洗練され、旨いとされる種もいる。

 しかし最近では獣の数と質が落ちているということで狩猟業自体があまり芳しくなく、狩る側も考えて狩らねば身を滅ぼす時代になってきている。