第一章 トラブルは横暴幼女と共に
ただ、快適であったのもついこの間までの話。
今から六日前の事である。
狼の顔を持つ黒毛の人外を退けたあと、切り倒された大木を材木として売るため全て回収してから帰宅の途についたリッキーは、市場の開場まで仮眠をとろうとベッドに潜りこんだのだが、程なくして夜明けと同時にくだんの幼女登場。
しかも鮮やかな桃色のポニーテールと何だかよくわからない露出多めな格好で登場するものだから、寝ざめの脳には衝撃が強い。
始めは、貧窮に喘ぐ孤児のような雰囲気で来たから、じゃあ話だけでもと眠い体に鞭を打ったのだが、よくよく聞けばなんのことはない。
あの幼女は精霊である。
精霊。
人の力を糧に生きる高位生命体。
精霊は人と契約を交わすことで、より強い生命力を得る生物だ。
力の総称は『魔力』。
元来、精霊は自然界に発生する『魔力』を得ながら、森の奥地や高山でひっそりと暮らす生物である。しかし、稀に自らが好む『魔力』を保持した人間が現れた時、精霊はその地まで行って契約を取り交わす事がある。
契約が持つ意味は人と精霊双方で違うが、簡潔に言えばその内容は、人は精霊の力を借りることができ、代わりに精霊は寿命と若さを得る。という事である。
つまりはギブアンドテイク。
このような事情により、リッキーは精霊に契約を迫られているのだった。
リッキーは仰向けになりながら天井を見つめて嘆息し、これまでを振り返る。
契約の勧誘自体は今に始まったことではない。あまたの精霊からの契約を蹴り続け、約八年。
別に自分の魔力が惜しい訳ではない。
事実、魔力とは人の生命活動において利便性もしくは必要性を孕んだエネルギーではないからだ。
そんな無用の長物と精霊の力を互いに貸し合う関係は、人側のリッキーからすればメリット以外の何物でもないのだが、