第一章 トラブルは横暴幼女と共に
「──ふむ、美味である」
抑揚頓挫(よくようとんざ)。
不意に、ついさきほど玄関先で聞いたような声がリッキーの耳を通過した。
首だけ動かしてそちらの方を確認してみれば、先ほど門前で追い払ったはずの桃髪幼女がテーブルに席ついて口に何かを運んでいるのが見えた。
更に目を凝らすと、幼女の口に放られているそれは、リッキーが今まで大事に貯蔵していた食糧だという事がすぐに分かった。
冬眠明けで引き締まった猪の燻製肉。
知り合いの牧場から貰ってきた生乳で作った自家製チーズ
街で仕入れた野菜根菜。
川魚の干し物。
果物類。その他諸々。
「何してんのお前ぇええええええええええええええええええ!!」
布団を蹴飛ばし、飛び起きるリッキー。
指を差して思い切り叫ぶも、当の幼女は微塵も気にせず食を進める。
今、幼女がほくほく顔で頬張っているのはリッキーの山小屋生活を支える大切な物。
定職に就いていない、つまるところ完全無欠に金欠な男の生命活動を補う最大の財産だったというのに。
「んぐ、何って。朝ごはんだよリッキー」
「あーそっかー朝ごはんかーちゃんと食えよー」
「ほら。リッキーも、起きたらまずごはん食べないと」
「おーそうだな。ありがとうありがとう……とはならねえ! 違うそうじゃねえお前、どうやってここ入った」
「お前じゃないかんね! クルスティアン・ポポリオーネっていう名前があってね!」
幼女の手はそれでも淀みなく進む。