第一章 虚無に満ちる人造秩序
早姫が死亡状態になるのを嫌っていると考えるにしても、それに伴う行動がいささかばかりか、かなり真逆で行き過ぎているように思えてしまう。
冷静を突き抜けて疑問を抱く義景に、ローブの人物は立て続けに問う。
「どうした? 理由だ。切裂早姫を守りたい理由が、お兄さんの中にはあるのだろう?」
「……僕は……」
即答できなかった。
分からない。
自分の中にあった早姫を守るという思いが、風にさらされ崩れていくような気がする。
「お兄さんは、そいつの事をどこまで知っている?」
知っているも何も、義景は早姫の事をよく知らない。
出会って間もないのも要因の一つだが、自分から早姫の事を聞こうともしなかったし、早姫から話してくれる事もなかったからだ。
そう考えると、事情も知らない相手の事を守ろうとしていた自分の行動は、あまりにも盲目的で衝動的だった事に気付く。
拳を力なく下ろして立ち尽くす義景の胸中を察したローブの人物は、ため息交じりに言う。
「やはり話しておらなんだか」
そして続けて呟く。
「そいつはログアウトをしないのではない。ログアウトが出来ないのだ」
言っている意味が義景には分からない。
ログアウトはプレイヤーがゲームを終了するコマンド。それが出来ないプレイヤーなんて見たことも聞いたこともない。だが、もしそれが真実であれば、早姫がログアウトをしなかった事にも辻褄が合ってしまいそうな気がする。
「まあ、理解できなくてもいい。詳しいことはそいつから聞くんだな」
言ってローブの人物は、踵を返して歩き出す。