第一章 虚無に満ちる人造秩序
「ちょ、ちょっと!」
焦って引き止めるも、次の言葉が出てこない。
聞きたいことは山ほどあるのに。早姫について何か知っていそうなこの人物ならば、自分ではまとめきれない答えも既に持っていそうなのに。
言いたい事が定まらない義景は、しどろもどろになりながら困惑の表情で口走る。
「早姫ちゃんは何で……君は一体……」
言葉が断片的すぎてとりとめがない。
ほとんど吐露に近いそれを、しかしローブの人物はしっかりとその耳で受け止めていた。
ローブの人物は首だけ振り返り、被ったフードの下で輝く大きな瞳を一瞬だけ覗かせて言う。
「そいつに伝えておいてくれ。ロランが来た、とな」
それと、
「今回はツケにしておく」
遠ざかる背中は、どこからともなく漂ってきた霧に巻かれすぐに消えて見えなくなった。