第一章 虚無に満ちる人造秩序
義景のスマートフォンがアイテム使用の文字を画面に表示する。それに伴って煙に巻かれるビル群の一角。昨日の今日で万全の体調にない事も併せ、失血の量も祟って劣悪になる視界の中、遠ざかるビルたちを早姫は歯を喰いしばって見送る事しかできなかった。
それから二人はビル群の一角を後にし、そこから離れた所にある公園へ逃れた。
義景は、逃走中に気を失ってしまった早姫を静かにベンチに寝かせながら思う。
あの時、現場に向かおうとした早姫を自分が止めていれば。
コレクターの出現情報を教えてさえいなければ。
頭の中に後悔ばかりが浮かんできて、早姫が傷を負ってしまった責任は自分にあるとさえ思った。
せめて大鋏の事だけでも伝えておけば、状況は少しは変わっていたかもしれない。
コレクターが持つ大鋏に斬りつけられると、【削血(さっけつ)】というステータスの状態異常に見舞われる事がある。
削血とは、付与した対象のHPを少量ずつ削る、毒のような状態異常である。流血するエフェクトを伴うそれは対象に視覚的な動揺を与え、隙を誘発する。
その削血状態も今はアイテムで打ち消しているので体力がこれ以上減少することはないのだが、低HP状態に陥ってしまっている早姫には別の脅威が懸念される。
それが、異常耐性の低下と他プレイヤーからの急襲だ。
プレイヤーが持つ異常耐性は、HP残量に比例して減少する。
左脚の消失に義足手術。そしてコレクターとの戦闘。