第一章 虚無に満ちる人造秩序

 短期間であまりにも身体を酷使している早姫の体力は元々低かった。そのせいもあって削血の状態異常に陥り易かった早姫の体力は、更に減っている。

 この状態で万一にも他プレイヤーからの攻撃を受けた場合、HPを削る類の状態異常付与アイテムを使われた場合、早姫が生き残る可能性は低い。

 HP回復アイテムなら既に使用してある。

 しかし腹立たしいことに、デュランダル・オンラインには失ったHPを即時で取り戻せるアイテムは存在しない。あるのは、時間をかけながら少量ずつ回復する物だけ。

「ログアウトさえ出来れば……!」

 血色の引いた早姫の頬に手を置いて義景は目を細める。

 体力がある程度戻って気絶から復帰できれば、ログアウトして現実世界に逃れることができる。

 ただ、回復の時間を稼ぐその間、義景が早姫を守らなければならない。

 戦闘から離れ、生産という道に進んだ自分が果たして早姫を守り抜けるのか。義景には自信がなかった。

 それでも、やらなければならない。

 願わくば、何も起こらない事を。

「──派手にやられているな」

 唐突に背後から飛んできたソプラノの声に、義景の心臓が大きく跳ねる。

 敵襲の可能性。

 だが動揺している場合ではない。義景は覚悟を決め、すぐさま振り返って早姫を守るように両手を広げ、声の主を視とめた。

 早姫と同程度の小柄なその人物は、頭からローブをすっぽり被っていて顔を確認することができない。ローブの裾から伸びた脚の細さと声の若さから推測するに、少女か。