第一章 虚無に満ちる人造秩序
それは性別の違いという意味でもあるし、年齢という埋めようのない隔たりでもある。
端的にいえば筋力差。
こと筋肉量に関すれば女性が男性を超えることは難しい。しかも比較の対象が少女と成人男性ともなれば差は歴然で、その差が現実世界と変わらず再現されるデュランダル・オンラインのシステムは早姫のような子供にとって不利に働く。
デュランダル・オンラインは、プレイヤーの身体能力を電脳世界の基礎能力としてトレースするゲームである。中には個人の潜在能力の程度で基礎能力に補正のかかるプレイヤーも存在し、現実世界では半身不随だった者がゲーム内では健常であったり、普段は陰気な人間がヒーローであったりもするがそれはまた別の話。
根本的な腕力で早姫はコレクターに勝つことはできない。
刀による斬撃を用いれば、あるいは勝つことも存外ありえない話ではない。ただし、致命傷を期待できる斬撃は相手が最も警戒する攻撃手段である。加えて、コレクターの身のこなしを鑑みるに当てる事は困難を極める。
肝は斬撃を放つタイミング。
そしてそれを生み出す武略。
鍵になるのは相手の反応速度を上回る手数の連打。即ち、ハイスピードコンボだ。
早姫は唯一気持よく決まった先刻の一撃の流れを思い出す。
上下の打ち分けと速度の配分。織り混ぜた突きのタイミング。どこかに致命傷を与える糸口があるはず。そうやって勝つための戦略を思考しているとコレクターがぼそりと呟いた。
「無駄です」