第一章 虚無に満ちる人造秩序

 それでも快音は響かない。またもコレクターの反応速度が上回り、横に躱され空発に終わる一撃。

 果たして、それは当たり前だった。

 左下から右上へ打ち上げるように振るった右手に刀は元々ない。得物を握るは隠した左手。早姫はそのままがら空きの脇腹へ本命の一振りを炸裂させた。

 鈍い打撃音のあとに残響する微かな高音。

 刀伝いに響く手応えは好打のそれではない。強襲の一撃はコレクターの手中に納まった鉄塊に寸でのところで受け止められていた。

 ──……鋏(はさみ)?

 早姫は鉄塊を見てそう思った。

 長さの違う湾曲した刃がそれぞれの中腹あたりで交差し、留め金で一まとめにされたフォルムはさながら巨大な鋏のように見える。

 ともあれ、

「ようやく抜いたな」

 言いながら刀を振り払って早姫は初めて自分から距離を取った。

 そして一つ、大きく息を吐いて刀を抜く。

 これでようやくスタートライン。

 ここまでのやり取りは闘争に持ち込むための火種。興味を示さない相手に正面を向かせ、得物を取り出させるための呼び水。

 斯くして舞台は整った。

 早姫は、抜身の刀を構えて言う。

「元気かよ。わたしの左脚は」

 対してコレクターは、低い声で返した。

「・・・・・・ああ、昨日の中学生でしたか」

 分かり易い挑発だった。

 だが、闘争開始の合図としては十分だった。

 早姫が動く。

 アスファルトを蹴り、一瞬で懐に飛び込んだ早姫は左の鉄脚をコレクターの側頭部目掛けて振るう。必然、上がるガード。しかもそれは腕を用いた防御。