第一章 虚無に満ちる人造秩序
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一陣。
吹き抜けるビル風が二人を撫でていく。
早姫は瞬きすることも忘れて仇敵の姿を視とめる。
纏った衣服、髪型も同様に、外見はどこにでもいそうな青年という印象を受ける背格好であるがその一方で、振り返って片方だけ見えるその左目には、およそ平凡と呼べる色彩は存在しなかった。
形容するなら灰色。
眼球を構成する組織は欠けることなく一通り揃っているのに、唯一生気がそこに宿っておらず、光を無くして濁っている。ともすれば、あらゆる事象に執着がないような死んだ目をしている。
つまりは、
──覚えてないってか? わたしの事なんざ。
追い打ちをかけるようにコレクターが早姫から視線を外して再び歩き出す。
──興味すら、ないってか?
柄の先に乗せていただけの手に力が入る。
昨日、コレクターがなぜ自分の左脚を奪っていったのか、その理由は早姫には分からない。
ただ、コレクターの興味の対象が初めから左脚にだけあったという事であれば、彼の目標は達成してしまっている。それによって早姫本体へ干渉する理由がなくなっている可能性は非常に高い。
しかし、それはコレクター(向こう)の都合であって、
──こっちには用事しかねえんだよ……!
胸の奥から迸って脳髄へ殺到する情動に突き動かされ、早姫はアスファルトを蹴った。
一足にゼロになる距離。手を伸ばせば届いてしまうこの間合いは早姫の空間。
飛び込んだ勢いそのままに早姫は鞘付きのまま刀を右に薙いだ。