第一章 虚無に満ちる人造秩序
臨戦態勢となった早姫を見て、義景は思わず聞いた。
「君は、闘いが好きなの?」
しかし的外れ。
早姫は抜身の刀を肩に担いで微笑む。
「わたしは、一秒でも永く生き延びたいだけだよ」
義景のスマートフォンが鳴り響いたのは、その直後だった。
早姫の表情に気を取られ、慌てて音源をポケットから取り出す義景。通話は二言、三言で終わり、電話の内容を手短に告げた。
「早姫ちゃん」
「ん?」
「コレクターが出たらしい」
「────」
それを聞いた途端に早姫の顔色が変わり、次の瞬間には刀を収めて白い部屋の扉を蹴り開け外に飛び出した。
追いかける形で義景も外に飛び出し、なんとか追い付いて早姫と並走する。
目的地までの道中、義景は行くことを止めたが早姫はまるで言うことを聞かずに走り続けるだけだったので途中で諦めてナビゲーションに回った。
そして到達。
二人の弾む息が響くビル街。
地上二十メートル級のビルが建ち並ぶ街の一角は奇妙なまでに静まり返っていた。車どころか通行人もいない。
そんな中、青いスプリングコートがビルの角を折れ曲がるのを目撃した義景が、指を差して声を張り上げる。
「コレクターだ……!」
人差し指が指し示す方向に走る早姫。そして角を折れ曲がった所で、道の先に居るスプリングコートを視とめた。脳裏に焼き付いた映像と今見えている後ろ姿が一致する。
間違いない。
「よぉ。二十四時間ぶりだな」
早姫の声に振り返るコレクター。
仇敵を前に、柄に手を乗せて仁王立ちする早姫の胸中は、ざわついていた。