第一章 虚無に満ちる人造秩序
その事を話すと、義景は驚いて目を剥く。
「ちょっと待って。早姫ちゃん、そんな事してたの」
接触感覚に頼ることが出来なければ、他のものを利用するしかない。
「部活柄というか癖というか。音とかリズムには敏感な方で」
「いや軋みって言ったって、そんなの認識できるレベルの音量じゃないよ……?」
義景の言う通り、人工筋肉が立てる軋みは、製作の段階でしなりや伸び縮みを確認するために振動の増幅器を使って認識するレベルの音である。
しかしこれで音の出所がはっきりした。
これでもっと、
──速く動ける。
早姫はにんまりと楽しげに笑う。
音の正体が判明した。左脚の構造が判明し、どう動いているのかイメージを起こし易くなった。
分からなかった事が分かり始める爽快感は、何物にも代えがたい。
反対に義景は、目の前の少女にただただ困惑していた。
人工筋肉が立てる軋みを感じ取って動きを調整しているなど俄かには信じがたいのだが、自分の目で早姫が躍動する様を目撃してしまっている。
自分の作品を性能いっぱいまで活用できる可能性を持った存在というのは、生産者にとって至高の喜びだ。だが、突然そういった存在にしかも初めて遭遇した今の義景は、ただただ困惑する事しかできなかった。
そんな義景を余所に、早姫は立ち上がって腕を伸ばす。
「よし、第二ラウンド行こうか」
「え?」
「左の中身もイメージしやすくなった事だし。忘れないうちに感覚掴んどきたい」
義景の返答を待たずに早姫はスマートフォンを操作して黒を纏う。