第一章 虚無に満ちる人造秩序
「極端すぎる……! というか、中学生がこんな夜中まで起きてちゃダメでしょ。早くログアウトして寝なよ」
先生みたいなこと言うなよと早姫は思うが、スマホの時計を見ればもう深夜帯で、明日も平日で学業がある中学生は現実世界に戻ってさっさと寝るのが健全だ。
しかし、早姫には模擬戦闘を終えた今だからこそ義景に聞いておきたい事がある。
「義景さん、ちょっと聞きたいんだけど」
「うん?」
「義肢の内部構造を知りたい」
何かを理解するには、まず内面から。機械仕掛けの左脚を使いこなすには、それを構成する内部構造から。
早姫は模擬戦闘で左脚を使用している時に気付いたことがあった。
それは、軋みである。
発生部位は分からないが、ぎしりとした音が骨伝いに身体に届いている。これについて義景に問うと、すぐに返答があった。
「それはたぶん、人工筋肉が伸び縮みしている音だね」
素材は合成樹脂を幹に帯電物質を織り込んだ伸縮に優れたもの。骨には頑丈で比較的軽い金属を使用しており、それぞれの配置は人体の構造とほとんど変わりない。
「人工筋肉か……なるほど」
義景の説明を聞いて早姫は納得する。
通常なら地を踏みしめるという感覚は足裏から伝わってくる。しかし早姫はいま、機工義肢に接触している生身の部分でそれを感じ取っている。
早姫が左脚を使いこなせないまでも邪魔にならない程度に動かす事ができているのは、軋みを利用しているからだった。動かすたびに骨に伝わってくる軋みで左脚がどう動いているか判断し、次の挙動の足掛かりにしていたのだ。