第一章 虚無に満ちる人造秩序

「嫌ならやらなければいいなんて、暴論だろ」

 きょとんとする義景に、早姫はさらに畳み掛ける。

「アンタの義肢は、アンタが勝手に付けたのか?」

「……え?」

「たとえここがゲームの世界だろうが、自分の意識を元に動き回れるんだったら、それは現実世界と変わらないはず。自分の意思が操作の鍵ならここで躓いて挫折する奴は、現実世界でも同じじゃないの?」

 目標を達成したい時、掴み取りたい時。

 何かを得ようとした時に人が起こす行動。その原動力となるのは人の意思であり、意志であり、心である。

 成し遂げられるかどうかは問題ではない。何事も、まずはやってみるという心構えから始まるのだから。

「えーっと、だからつまりだな 」

 早姫は言う。

「わたしは逃げない。いずれ左脚(こいつ)を使いこなしてやるよ」

 その言葉に義景は満面の笑みを浮かべた。

 そして一言。

「ありがとう、早姫ちゃん」

「お礼を言わなきゃいけないのはこっち。義景さん、こんな死に損ないに生きる力をくれてありがとうございます」

 居住まいを正し、膝に拳をついて深々と頭を下げる早姫を見て、義景は再び笑う。

「早姫ちゃんってさ、武士なの?」

「いや、バスケ部」

「うそだ、似合わない」

「あん? そういうそっちは何部なんですか」

「いや何部っていうか……成人で社会人だからねぇ」

「知ってるか義景さん。成人は女子中学生としゃべったら犯罪なんだぞ」

「会話も許されない!?」

「フレンド登録をしたら死刑」