第一章 虚無に満ちる人造秩序
動きはするが何か違うという、目に見えない感覚的な隔たりがジレンマを起こしストレスとなり、苦痛を感じそして離れていく。
「まあ、ゲームの世界だし。嫌ならやらなければいいだけの話だし。僕の義肢がこの世界から遠ざかる原因になってたら世話はないよね」
機工義肢は、もう一度立ち上がるための力なのに。
そう言って義景は微笑した。
その表情は、機工義肢を授けてもゲームから離れていった者たちを思い出してのものなのだろう。笑みの中に寂しさの影がある。
機工技師の義景にとって義肢は我が子のような存在であろうことは、出会って間もない早姫にも分かる。義景のような生産者と呼べる人間が作り出す物と比べてしまうと程遠いクオリティだが、早姫にも物を作って誰かに贈った経験があるからだ。
自分が作った物を誰かが使ってくれる。大切にしてくれている。それだけで作った側は嬉しい気持ちになる。作った時に込めた気持ちの分だけ返ってくるものも大きくなる。
ただ残酷な事に、逆もまた然り。
本懐を終えたのなら良い。生産者が使用者に使い続けること、大切にし続けることを強要はできない。しかし目的も果たさないままに消えていく我が子を見て、どうして平静でいられよう。
意識だけを叩き込むデュランダル・オンラインの世界で手足を失ったとしても、現実世界にある身体においてはなんら影響を及ぼさない。
大事なのは現実世界で、ゲームの世界は目を閉じればそれだけで終わってしまう細い細い幻想であるのは間違いない。
しかしそれでも、早姫には理解できない事がある。
早姫は少し強い口調で言う。