第一章 虚無に満ちる人造秩序
重量が増したおかげで蹴りの威力は上がっている。それでいて重すぎず、挙動の邪魔にはならない。動かそうと思えばそれに従って動いてくれる。
だが、致命的な問題点もある。
「動きのレスポンスが、わたしの頭にまだ追い付いてない感じがする」
脳が神経を介して各部位へ命令伝達する速度は約〇・二秒。
早姫の感覚では、左の挙動が右より僅かに遅い。
しかしそれも仕方のない話だ。
「義肢になったばっかりなんだから動きにくいのは当たり前だよ。でも、あれだけ動けるのはなんというか、ビックリだね」
義景は早姫の隣に座って続ける。
「狷介固陋(けんかいころう)」
人は、扱いに慣れたものを手放し新しいものを手にした時に、少なからず窮屈さや煩わしさを持つ。
当たり前のことだが、新しいものはこれまでの慣れ親しんだものとは違う。
三者三様。隣を見ればまったく違う人間がごまんと存在する世の中で、古きを守り新たきしを嫌う人は多い。それもそのはず、たとえ新旧双方の間に革新というメリットがあったとしても、新たきしを知るには古きを扱うよりエネルギーを使うからだ。
「自慢じゃないけど機工義肢は、元の手足と遜色ない第二のそれだと僕は思ってる。機能はもちろん、人工皮膚で本物の質感も出せる。だけど、慣れるまでに挫折しちゃう人もいるんだよね」
その原因は、自分本来の四肢が持っていた感覚とのギャップにある、と義景は言う。
それは早姫にもよく分かる。
左脚は動く。
けれど感覚は元の脚とは別物。