第一章 虚無に満ちる人造秩序

 作業台と思しきテーブルの上には雑多な部品と道具が散らばっていて、工場のような印象を受ける。

「ここは僕の工房」

「工房?」

「そう。早姫ちゃんと同じように、身体の一部をなくしちゃった人のために義肢を作ってるんだ」

 欠損を補うための人工物。

 ただ、それではコレクターには勝ちえない。生身の脚と比べるまでもなく挙動の滑らかさに難がある義肢では、役不足すぎるのは明白だ。

「僕の義肢は日常生活を補助する物じゃないよ」

 男は言う。

「僕が作るのは機工義肢」

 人体工学に基づいて設計されるそれは関節の可動から筋肉まで、生身により近い造形で再現される。加えて神経系を接続することで自分の意思通りに動かすことができる。

 言うなれば代替品。

 文字通り、代わりの脚というわけだ。

「それがあれば生身の脚と同等かそれ以上の動きができることを保障するよ。まあ、付けるかどうかは早姫ちゃんの意思次第だから、どうするかは任せ、」

「付けるよ」

 即断。

 男の言葉を遮って早姫は言う。

 清々しいまでの即決に、男は再び乾いた笑いを漏らす。

「オーケー分かった。でも、施工するのは明日」

「なんで?」

「体力が回復しきってないでしょ。それじゃあ手術は難しい」

 それに、と男は続ける。

「あと一時間後にはワールドのメンテが入るからね。一旦出なきゃ」

 早姫はポケットからスマートフォンを取り出して画面を見る。

 ホーム画面に表示されている時間は午前三時。その上を掠めるように流れるテロップが、メンテナンスの詳細を流していた。