第一章 虚無に満ちる人造秩序
努力が必ず実を結ぶのならば、全ての人はすべからく努力すべきである。
善行が世界を救うのなら、全員が全員それを行うべきである。
しかし全ての努力が善行が実を結ばないのは、それが百パーセント信用していい成功への道ではないからだ。
成功した人間は言う。
自分が信じた道を進んできました、と。
道の先に希望があり目的があり、信じられたなら到達できる。懐疑的ならば挫折し、いつまでも道に横たわったままとなる。
そして成功者と挫折者に別れる。
前者と後者を分かつのは思いの力の差。目標に向かうための心の状態が、どれだけ前向きであるかが重要になる。
早姫に目的を達成するための心構えがあるのは、瞳に宿る光を見れば分かる。
敗北していながら一体どこから湧き出てくるのかは分からないが、コレクターを打倒すれば良いと言うだけの気概もある。
ただ、決定的に足りないものがある。
「脚が必要だ」
ぼそりと漏らす早姫の言葉は正しい。
両ある状態で負けているのに、片足で勝てる道理はない。
その言動に、早姫が少なからず置かれている状況は理解している事を確信した作業着姿の男は、にっこり笑って屈めていた身体を起こす。
「それなら心配しなくていい」
「?」
男はベッドから離れ、ブリキ扉の横のブラインドを巻き上げる。
露わになる窓ガラスの向こうには、コードに繋がれた機器が置かれた部屋があった。
機器から漏れるきりきりとした甲高い金属音は、早姫が目覚める時に聞いたものと同種。