第一章 虚無に満ちる人造秩序


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 デュランダル・オンラインに存在する数多くのプレイヤー。その中の一人にコレクターと呼ばれる人間がいる。

 無論、名称ではなく通り名である。

 蒐集する者という意味の異名を冠するそのプレイヤーには、名の通りではあるがしかし理解しがたい嗜好があった。

 それは、

「他人の身体を切り取って保管する」

 作業着姿の男は、早姫の左脚を見て重々しく言う。

「コレクターは他人の身体のパーツを集めているんだ」

 蒐集とは趣味の品を集めることだ。だが、その対象が人体にまで及んでいるとなれば正気の沙汰ではない。

 しかも、保管されているものだから消滅してはいない。

 この事から、ゲーム内で消滅した身体を再生する効力を持つ火蜥蜴の尻尾は、早姫の左脚を効果の範囲外と認識しているらしかった。

 アイテムでの復帰は見込めない。

 ならば、どうすればいいのか。

「なるほど。つまり倒して取り返すのが手っ取り早いって事ね」

 あっけらかんとそう言ったのは早姫だ。

 呆気にとられて茫然とする男は急いで我に返って口を開く。

「あ、あのね早姫ちゃん。そうなんだけど簡単じゃないよ? まずコレクターが誰なのか知ってるの?」

「さあ」

「居場所に心当たりは?」

「うーん」

「じゃあ何か策でも?」

「いや全く」

 返ってくる答えに、男は乾いた笑いを漏らす。

 早姫の声には真剣味がまるで無く、ひどく軽い印象を受けてしまう。

 しかし、頼みの綱であるはずのアイテムが無用の長物になってしまったというのに、瞳に宿る光は先ほどと変わらず失われる事はなかった。

 この世界だから。

 早姫が放った言葉が男の頭の中に蘇る。

 確かにこの世界には救済の余地があるが、それを希望に行動し続けることは存外難しい。何故ならその希望がいつまでもあり続けるとは限らないからだ。