第一章 虚無に満ちる人造秩序

 この世界は、現実の世界ではない。

 端的に言えばここは、【デュランダル・オンライン】と呼ばれる、電脳が支配するバーチャルリアリティゲームの世界なのだ。

 だからと言って自身の身体を軽んじているわけでは決してない。

 傷付けられれば痛いし、身体のどこかを失ったとしたら手を施さない限りそれは失われたままだ。

 それでも現実世界と決定的に違うのは、救済の余地があるという点である。

 火蜥蜴の尻尾は、まさに肢体の欠落を復帰させるアイテム。早姫の脚は、光の発生と共に再生する──はずだった。

 左脚を覆っていた光が、まるでスイッチを切ったようにぶつりと消える。

 その代わりに浮き上がる正三角形のエンブレム。発光する白で構成されるトライアングルの中心には、GUARDの文字が浮かんでいた。

 文字が示す意味。それは、

「効力無し……!?」

 驚愕する早姫の横で、男は静かに嘆息する。

「これは……持っていかれたのか」

「持って、いかれた? アンタ、何か知ってんのか?」

 早姫の問いに小さく頷いた男は、目線を合わせるように屈んで告げる。

「君の左脚は、どうやら【コレクター】に持っていかれたらしい」