〇〇八

 折り目の正しい白いワイシャツとグレーのスーツパンツ。ボタンの付き方とパンツの形状から女性物と判断するに難くない。更に言えば、コーヒーを注ぐ時に跳ねたシミがシャツの腹部に当たる位置に数滴付いている。

 つまりそれらは、それらは先ほど事務所を出て行った夫人の物で間違いなかった。

「テメー。自分の妻ぁ、山羊にしやがったな」

 瞳孔を全開にして問い詰めるロニに対し、現場監督もといジョーンズ工務店社長メイソン・ジョーンズは軽薄に笑う。

「────ロニちゃんも邪魔になっちゃったな」

「!?」

 直後、建物全体に激震が走った。

 メイソン・ジョーンズが振るった右腕が家屋を直撃して爆砕したらしい。

 しかし視界に入る彼の腕はその巨大さもさることながら、およそ人間と呼べるものではない。茶色と白の毛に覆われた獣の腕。手指は認められるが、生えそろった爪は赤黒く邪悪なものだった。