〇〇八
赤い屋根の建物が見える。
ロニは走る速度をそのままにその建物の中に突っ込んだ。体当たりで扉を吹き飛ばす形になり、受け身を取って二転三転したあとロニは立ち上がって頭を上げる。頭を上げ、視界に入ってくる光景に驚愕した。
部屋の中央付近にあるテーブル。その上に乗った紙を咀嚼する山羊の姿。長方形の瞳孔からは感情を読み取る余地がなく、大きく捩じれた巻角からは邪悪ささえ感じる。窓から差し込む月明かりがその佇まいをことさら不気味にしていて、ロニは思わず一歩後退った。
よく見れば奥にもう一頭おり、そちらの方には角がない。目が合うと、山羊は牛の様な声で低く鳴いた。
これがバフォメールであると直感したロニは、部屋の奥へ更に一歩踏み込んだ所で動きを止めた。
「あれ? ロニちゃん? 何やってんの?」
背後から声。
首だけ動かして後ろを確認してみると、現場監督の姿がそこにあった。作業着姿のままで、壁外からそのまま来たようであるらしかった。
ロニはゆっくりと身体を現場監督の方へ向けながら言う。
「ああ、監督。こっちに奥さんが来たと思うんですが見てませんかねぇ」
「うちの? いやぁ見てないな。事務所じゃねえの?」
「事務所には居ませんよ。ここに行くって言って、出て行きましたから。ねえ、監督。もしもの話なんですがね、ライバルって多いと実際面倒じゃないすか」
「……?」
「で、邪魔な奴消えてくんないかなーとか思う事ってありません?」
「…………どういう」
ロニは部屋奥にいる無角山羊の近くに落ちている衣類を指差す。