〇〇八
それは、ある動物の特徴と一致する。誰から聞いたか思い出せないが、自分の脳髄がその鳴き声の主はバフォメールで間違いないと主張してくる。
思いがけない情報に興奮気味になる心を、しかしロニは努めて鎮める。こちらが知りたい肝心の情報はまだ聞けていない。
こちらの目的は、本日不在だった作業員の血液型を調べる事。
普段から従事している職場であれば、社員のデータは保管されていて然るべき物である。ここジョーンズ工務店の事業内容は建築系であるから、作業中に負傷してしまった時、輸血を受けることが有り得るため、社員の血液型を把握している可能性が高い。
となれば社員名簿のようなものを見ることができれば目的を達成できるのだが、如何せん個人情報だ。おいそれと外部の人間に開示できるようなものではない。
しかし、どうにかして見る事はできないだろうか。
夫人と会話を続けながら思案した結果、ロニは、自分が追っている失踪事件のことを話して捜査に協力してもらうしかないという考えに至った。
失踪事件の概要を話すと夫人は意外にも簡単に承諾してくれて、「ロニちゃんは本音しか言わないでしょ? 信用できるから」と言われたことがロニは嬉しかった。
「はい、じゃあこれ」
夫人が差し出す厚さ五センチ程度のファイルをロニは受け取る。
表題は社員名簿。
「うちの社員は血液型を全員分調べて載せてあるから、他にも失踪した人たちと同じ血液型の子がいたら守ってあげてね」
そう言って夫人は静かに微笑んだ。
「まぁ、コーヒーでも飲みながら読んで」
「助かるっす」
「あ、そうだロニちゃん」