〇〇八
「ほい?」
「ちょっと留守番しててくれる?」
「はぁ、別に構いやせんけどお出かけです? これから?」
夫人はカフェエプロンを外しながら、
「そろそろ事務所閉める時間だし、帰る前にもう一回様子を見に行こうと思ってね」
じゃあ、お願いね。と言い残して事務所を出ていく夫人を、ロニは手を振って見送る。
事務所の留守を任せるなんて信用し過ぎなのではないかと思うが、その信頼がロニには言いようもなく心地良かった。
しかし、良い心地に浸っている場合ではない。
こくり、とコーヒーを一口。
ロニは一度深呼吸して気持ちを切り替えてから社員名簿を開ける。
中身に目次はなく、雇用の古い順に記録紙がファイリングされているようだ。数項めくって件(くだん)の作業員のページに辿り着いたことから、比較的新しい社員であることが分かる。
記録紙には出身地、身長、体重、視力。血圧、脈拍、血液型が明記されており、求めていた答えを確認することができた。
結果は、一致。
これまで失踪してきた人間と、作業員の血液型は同じものだということが判明した。
ということは、朝から連絡がとれなくなっている作業員は、すでにいなくなっている可能性が考えられる。
同じ血液型の人間が次々に消えていく事象。
何故このようなことが起きるのか────そこまで考えてロニは前提がそもそもおかしい事に気付く。
起きるのではなく、起こされている。
消えているのではなく、消されている。
自然的ではない、人為的である。