〇〇八

 ロニは薄暗くなった街に消えていくシルベスタの背中を見送ってから目的地へ向かった。

 行先はジョーンズ工務店。

 工務店へは二度ほど訪れたことがあるので道には迷わない。先ほどのベンチから数分歩くと三階建ての建物が見える。そこが目的の場所だ。一階は材料等が置かれている倉庫。ロニは事務所がある二階へ昇って扉を開けた。中に現場監督はおらず、夫人が一人で事務処理をしているようだった。

「あ、ロニちゃん。いらっしゃい」

「ども、こんばんはです」

 軽く会釈をして中に入ると、ソファーに誘導された。

「食べ物でも漁りに来た?」

 事務処理の手を止め、コーヒーの用意をしながら夫人はくすくす笑って尋ねる。

「違いますよー。やだーもー。今日来てなかった作業員さん、どうなったかなぁと思いまして」

「ああ心配かけてごめんなさいね。二時間置きくらいで様子を見に行ってるんだけれど反応もないし、居るのか居ないのか分からないの」

「ここから近いんです?」

「ええ。歩いてすぐよ。裏の通りを二本挟んだところにある赤い屋根の建物」

「作業員さんの家に行った時、何か変な事とか変わった事はなかったですか?」

 その問いに夫人は思案するような表情を見せ、持っていたティーポッドを置いてからふつふつと語り出す。

「……そういえば、音」

「音?」

「もっと言えば、何かの鳴き声みたいなものが聞こえた気がする」

「それはどういう」

「そうね……牛……の鳴き声に似ていたと思う。低くて響くような感じ」

 牛に似た鳴き声。