〇〇七
前日の作業で出来たムラの部分を探しながらモルタルを塗り足していくのは、集中力と体力を同時に持っていかれてかなりしんどい。
壁の上から紐で身体を吊るし、足を突っ張って左右の移動をする。
これも五人五班で作業区域を分担して施工。ただ単純にモルタルを塗るのとは違い、紐で吊るされている分、バランスを取るために全身を酷使するので疲労度は前日の比ではない。
開始二、三十分も経つ頃には吊るされた紐に全体重を任せ、気ままに揺れるロニの姿があった。
そんな部下を横目で見ながらシルベスタは呟く。
「おい、カエル顔」
「カエル顔言うな!」
気にしているのかロニの反応は過剰だ。
「カエルだったら上手く壁飛べるだろ」
「あんだと筋肉ゴリラ。自重で紐切れないように精々気を付けてくださいよコルァア!」
「元気があるな。身体を動かせ」
体の悪い指摘にロニは反応しない。再び脱力してぶらぶらする。
「それでも軍人か」
「お言葉ですが上官殿。軍人は軍人でも前線組と後方支援派がおりまして、肉体労働が苦手な軍人もいるのでごぜーますよ」
確かに、軍部に属する人間には種類がある。
警務部や軍事部といった部署は現場に出て戦闘や捜査を行う機会が増えるため、運動能力に秀でた人員が集まり易い。司書であるメリーはまた特殊な立ち位置ではあるが。
逆に、総務部は業務の手配や人事関係、備品の調整や経理決済などといったデスクワークが主だった仕事であるから、体力的には警務部・軍事部と比べると劣りやすい。
「上官殿は確か、軍事部出身でしたなぁ?」
「……なんで知ってる」