〇〇五

 結論から言えば、シルベスタが必要としている報告書は、全てが転写可能な書類だった。

 文書には機密レベルがあり、情報漏えいを防ぐため、転写が禁止されているものも存在する。

 転写が可能なものは○特(マルトク)の刻印がなされる。

 これは、司書が転写をしたという印だ。

 他にも司書以上の権限を持つ者が文書を転写した場合に押される刻印もあるが、それはまた別の話。

「ではシルベスタさん、ご依頼に預かりました書類の転写が完了いたしましたので、どうぞご覧ください」

「恩に着る」

 シルベスタは差し出された書類を受け取って近くの席につく。

 書類の表題は、外壁補強の任についての報告、と銘打たれている。

 一番上の書類の筆者がロニ・ヴァルフォアであることから、書類の並びは最新順。しかしロニの書類の内容は本人から聞いていて既に用済みなので割愛して項を送る。

 そして四ページめくったところで前々回の報告書がようやく顔を見せた。

 シルベスタはそのまま黙々と項を送り、三十分ほどかけて過去五年分までの報告書を読み終えた。

「メリー、ありがとう」

「……はぇ?」

 シルベスタの向かいに座ってうとうとしていたメリーの意識が急に覚醒する。

「もう読み終わったんですか? 十八年分もあったのに」

「いや、途中だけど十分だ」

「そうですか。何か分かりましたか?」

「ああ。三年前だ」

「三年前?」

「壁塗りの周期が変更されてる」

 三年前だ壁塗りの周期だと聞いてもさっぱり意味が分からないメリーは首を傾げて眉を寄せる。