〇〇五

 そろりと右手を挙げながらメリーが言う。

「私も一応、軍事部なので閲覧権があります。そして、もし私にも読めるレベルの文書であれば転写が可能です」

「本当か?」

「はい。ただ基本的に転写の依頼も書面にて提出していただく必要がありまして」

「提出場所はやっぱり……?」

「文書管理課です。が、転写は許可が要りません」

「それはどういう?」

「転写の依頼は書面を提出していただけさえすればいいんです。たとえそれが事前だろうと事後だろうと、その正誤を確認することなんてできないのですから」

 だからシルベスタさん、とメリーは続ける。

「書面はもうお出しいただいてますよね?」

 瓶底眼鏡がずれて露わになったメリーの碧眼。

 したり顔で口角を上げる彼女を見て、シルベスタは思わず笑った。

「メリー」

「はい?」

「俺、お前みたいな軍人、けっこう好きだよ」

「は、はひ!」

 時間経過。

 それから約一時間が経とうとした頃、メリーは報告書が保管されてある図書館の地下から上がってきた。

 書類を抱きかかえたメリーは扉に施錠をしながら辺りを見渡す。

「あれ、ロニさんがいませんね?」

「ああ。ちょっと出てるよ」

 読んでいた本を閉じるシルベスタ。

 タイトルは、名水百選。

「シルベスタさんは水にこだわりがあるんですか?」

「いや、まあ興味本位。こだわりあるのはパン」

「はい?」

 後半部分に理解が追い付かなかったようでメリーは小首を傾げる。

 どういう意味かと問われたが、シルベスタは適当にはぐらかして報告書の話を促した。