〇〇五

 そう言って伏し目がちに視線を外すメリー。

 たしかに、上背一九〇センチに迫ろうかという男が敬礼をすればそれだけで少しは威圧感が出るし、敬語を使うと性格的な堅さも強調されやすくなる。

 ──恐がられたか……。

 シルベスタに恐がらせるつもりがなかったとしても、それは受け取り手の問題で。

「だったらお言葉に甘えさせてもらうよ、メリー」

 こくりと頷くメリーは、しかしなかなか目を合わせようとしなかった。

 さておき。

 報告書閲覧の勝手に関してよく分かっていないシルベスタは、メリーに尋ねる。

「部署にも個人にも権限がない時はどうすればいいんだ?」

「あ、そういうことでしたら閲覧の申請を出していただければ良いかと思います」

「申請?」

「はい。たとえば権限を持っていない部署の中で少尉以上の方がお休みだったり外出中だと重要書類の閲覧ができない状況というのが出来上がってしまう時があります」

 それを回避するための方法。

「閲覧権は許可性で、申請を出していただく必要があるんですね」

 申請は書面にて。

 提出先は文書管理課。

 申請は基本的に拒否されることはないし、書面を出してから承認までの処理は十分足らずで結了することが多い。

 ということであれば、文書管理課所属のメリーへ申請書を出せば話は早そうな気もするが、

「すみません、私には決定権が無いんです……」

 司書には申請を受諾する権限が与えられていない。

 司書に与えられた仕事は本、文書の整理・破損個所修復・転写。あとは、館内の案内といったものだけなのだった。