〇〇四
しかし、そうやって管理することで今ある自然環境が本来の寿命から一歩踏み込んで生きながらえていることもまた事実で、おこがましくも人の手がなければ成しえない事であったりもする。
「街の近くに広くて深ーい森があるでしょ? あの辺りにはヴォルフが生息していてね」
ヴォルフ。
ネコ目イヌ科イヌ属に分類される狼の一種。
もちろん肉食。
ヴォルフは狼の中で最も巨大な種で、全長二メートルを超える個体も存在する。
「かなり古い話だけど、街の新興期にヴォルフは家畜を荒らしてね、当時はヴォルフ避けにカラサリスの花を使ったんだよ」
カラサリスの花はテオブロミンという物質を有しており、ヴォルフはそれを極度に嫌うのだと係長は言う。
「はあ、それがバフォメールとどんな関係が?」
「うん。バフォメールはカラサリスの花を好んで食べる習性があるんだね」
「……なるほど」
つまり、ヴォルフ除けに必要なカラサリスの花をバフォメールが食べてしまうのを防ぐために一斉駆除に乗り出したというわけなのだった。
「それでも大型のヴォルフには花の効果が薄かったりするのね。街の周りに壁が作られたのはそれから。大型ヴォルフから街を守るのが壁の役目。シルベスタ君、山羊の話は自分で調べたの?」
「いえ、現場監督から」
「ふむ」
神妙に頷いて顎をさする係長を横目に、シルベスタは情報を整理する。
──まず、外壁は狼を街から締め出すために作られた。
狼は近隣の森を生息域としており、現在進行形で棲んでいる。