〇〇四

 一日目の終了時間は午後五時三十四分頃。予定終了時刻である午後五時四十五分以内に終了したため、作業員数、工程ともに適性と思われる。

 ただし、作業人数が適性であるというのは多面担当二人を含んだ二十五人での場合である。

 また、壁の補強が三カ月に一度の周期で行われる理由として、モルタルが含有する成分を捕食する山羊の存在が問題になっていると思われる。

 バフォメールという種類の山羊はヤスリ状になった舌で壁を削り取る。

 この山羊のせいで壁の劣化が加速度的に進んでいるとすれば、モルタルの材料を見直す必要があると思われる。

 なお、モルタルに使用している材料については総務部庶務二課軍部施設資材担当に改善案を上げる予定で、

「うん?」

 報告書を走り読みしていた係長の目が止まる。

「どうかされましたか?」

「あ、うん。山羊ね山羊……」

「山羊が、どうかされたんですか?」

 変な事でも書いてしまったのだろうかと眉を寄せるシルベスタ。

 それに対し、顎を触りながら何かを思案していた係長が探るような口調で言う。

「いやね、この辺にまだ山羊なんて居たかなってね」

「まだ? ……と言うと?」

「シルベスタ君は出身が違うから分からないのも無理はないけど、ここいら一帯に生息してたバフォメールはね、昔、一斉駆除されたんだよ」

 動物の一斉駆除。

 その土地の自然、生態系を守るためには必要な犠牲というものが付き物だが、そんな思考はまったくもって人間の身勝手である。まるで自分たちが神であるかのように他の生物の増減を管理し、草木を薙いでは再び育てる。