〇〇二
班に割り振られる人員は各五人。そんな少人数で足場を組み立てながら二〇〇メートルずつ壁を塗らなければならないのだから、労働としてはかなり過酷だ。
「結構きちィだろ」
シルベスタの隣にいる民間会社の現場監督がロープを引き上げながら言う。
モルタル入りの重たいバケツを勢いよく引き上げる腕は、さながら軍人のように筋骨隆々で、茶色の坊主頭が厳つさに拍車をかける。
シルベスタは、壁を淡々と塗りながら返す。
「まあ、割と」
「割とかい。軍部の人間は鍛え方が違うってわけだ?」
「いえ、そうでもありません。高所作業は心力を削られますし、反復的な作業道具の運搬は筋肉への負担が相当なものです」
「仏頂面で言われても説得力に欠けるな……。アンタ肉体派っぽいし全然平気そうだし、まず作業着じゃねえし」
ワイシャツ、ベスト、スラックスに革靴。
捲った袖から覗く軍人らしい筋骨隆々の腕はともかくとして、服装だけで言えばおよそ肉体労働向きとは言えない格好だ。
「作業着の替えならあるけど、着るかい?」
「お気遣いなく」
仏頂面で即答され、現場監督は苦笑する。
「まあ、転んだりしなけりゃいいんだけどよ。作業に支障はねえんだな?」
「これが自分の仕事着なので。時に監督」
「ん?」
「お伺いしたいのですが」
シルベスタの申し出に、現場監督は一旦手を止める。
「なぜ自分たちの班は、班員が四人なのでありますか」
「ん、ああそれは──」
と、現場監督が言いかけたところで、足場の下の方から誰かの声が聞こえてきた。