〇〇一

 ともすれば、今の自分が窓際にいるのは自分のせいである、という現実を受け止めなければならないのは明白だった。

 そんな、突きつけられる暫定的な現状を把握し始めるシルベスタの耳に電話の着信音が飛び込んできたのは、力なく椅子に腰を落とした直後のことだった。

 じりじりと五月蝿い着信音を止めたのはグスタフの手。

「はい、こちらシチメンドウです」

 ブリキで修理された継ぎ接ぎだらけの受話器を耳に当て、グスタフは「ほう」、「なるほど」と適当に相槌を打ちながら二、三度頷いて手短にやり取りを終える。

 そしてがちゃりと受話器を置いた直後にはシルベスタの方を見ていた。

「シルベスタ君、早速で悪いけど仕事入っちゃった」

「……本当に仕事ですか?」

「ああ、仕事だよ。すごいやつ」

 係長の人好きのしそうな笑みがやけに腹立たしく感じてしまうシルベスタだったが、上司の命令とあらば動くのが部下の務めである。

 それに、現実を理解するには現状に身を置くことが手っ取り早いのも事実。

 窓際としての第一歩。

 ──……ままよ。

 心の中で嘆息を漏らしてから、シルベスタは敬礼した。

「イエス・サー!」

「気を付けて、行ってらっしゃインジェラ!」

 インジェラ。

 薄く焼かれたスポンジケーキのようなパン。

 いや、そんな事は重要ではない。

「係長、敬礼が左手になってます」

 慌てて敬礼し直すグスタフの表情は、やはり人好きのする笑顔だった。