〇〇一
ふざけた口調とは真逆の折り目正しい敬礼に、反射的に敬礼を返すシルベスタ。両手の支えを失ったアーモボックスが床に落ちて中身が散乱する。
とは言っても、箱から飛び出たのはペンとインクと封筒、本が二冊と写真立て。
箱にまとめるほどの量でもない荷物だったため、二人がかりで拾い集めると元通りになるのは早かった。
「ありがとうございます」
「はいはい。どういたしましテーブルロール」
「デスクはどうすればよろしいですか?」
「あーシルベスタ君には、あの席を使ってもらおうかな」
言われてシルベスタは指示された席にアーモボックスを置く。
「係長」
「どうかしたカイザーゼンメル?」
「…………係長は、パンがお好きなんですか?」
クロワッサンもテーブルロールもカイザーゼンメルも、全てパンの種類である。
「ほう、シルベスタ君はパンに詳しいのかい」
「はあ、まぁ……いやそうではなくて」
小首を傾げるグスタフにシルベスタは尋ねる。
「多面担当(ここ)は係長と自分の他には?」
まさか二人だけということはないだろうとシルベスタは思う。
デスクは二つ一組を向い合せた形で八つあり、机上はどれも書類や帳簿で散らかっている。
グスタフは自分のデスクに戻り、書類に埋もれたロールパンを引っ張りだしてシルベスタの疑問に答える。
「いるよもう一人。女の子でね。あ、今はちょっと外に出てるよ」
係長と自分ともう一人。
しかも女。
「三人だけ、ですか」
「そ。少数精鋭だよ、少数精鋭」
そう言われると聞こえは良い。