〇〇一

 機工の一部が老朽化の影響で壊れ開きっぱなしになった門をくぐり、ランニングボンドの石畳を三十メートルほど直進したら左折。

 しばらく歩くと足元が砂利に変わり、つる植物のアーチが見えてくる。等間隔で並んだそれは進むごとに茂りが減っていき、最後のあたりには錆びた骨組みだけ。残り一つのアーチをくぐり抜けるとハッチがあって、蓋を蹴り開け梯子を伝って下に降りる。降り切ったらオレンジ色の裸電球に照らされた道を進み、運搬用エレベーターで更に二十メートル下降。エレベーターから出て道なりに進むと鉄の扉が視界に入ってくる。

 鉄扉の近くには看板が。

 総務部庶務七課・多面担当(ためんたんとう)。

 鉄板を走る掠れた白は、そんな文字を紡いでいた。

「本日付けでこちらへ異動となりました。シルベスタ・ガフです」

 扉の奥。

 部屋の中。

 机が並んだ部屋の入口で、刈込んだ銀の短髪頭を下げる壮年の男がいた。

 両手で抱えたカーキ色のアーモボックス(防水防塵に優れた弾薬保管箱)。白シャツ黒ベスト、スラックス姿で上着は着ていない。口元には銀の顎鬚をたくわえていて、ブラウン色の瞳には光が差し込んでおらず、濁っている。

 シルベスタが頭を上げると同時、部屋の奥から声が飛んでくる。

「おお、君がシルベスタ君かい」

 声がする方へ目を向けると、そこには小太りで頭が禿げ上がった人の良さそうな初老の男の姿があった。

 初老の男は椅子から腰を上げて名乗る。

「総務部庶務七課・多面担当係長、グスタフ・ワットです。よろしクロワッサン」