一、世界はそれを成り行きという
「なんか格好よく言ってる風ですけど、お酒飲みたいだけですよね!?」
反論するもまるで無意味で、ロニはずかずかと店内へ入っていくシルバを追うように入店した。
店内は木材で形成されていて、木組みの天井から吊るされたランプが温かみのある光を放っている。カウンターの傍らの蓄音機から流れる音楽は音量が小さいながらも、客たちの話声に埋もれる事なく空間を漂っている。そんな店内の中ほどまで足を進めると、グラスを磨いていた店主からカウンター席へ誘導され、案内されるがまま席に着いた。
見ない顔だね、と店主。
小太りで額が後退した、人の良さそうな中年である。
「旅の途中で立ち寄ってね。あ、ウイスキーある? ストレートで」
しれっと注文をするシルバを横目で見やってロニはカウンターに置かれたメニューを手に取る。アルコールを注文するつもりはない。しかしメニューにはノンアルコールの類がミルクしかなく、ロニはやむなくそれを注文した。
ややあってウイスキーが入ったグラスが出て来て、シルバはそれを受け取り、口に付けてゆっくり傾けた。
口腔に含んだ液体は少量だが、喉に流し込むと同時に香り高い風味が立ち昇って鼻を抜けていく。鼻孔の奥に残る、ひりつくような余韻はアルコールのそれ。シルバは一度グラスを置き、後から出された水入りのグラスを手に取る。
これも少量だけ口に含んで喉へゆっくり流し込むと余韻が一瞬で消え、一気に味覚がクリアになった。
「美味しいですか?」
と、ロニ。
「ん? 飲みたい?」
「いえ、結構です」
シルバが差し出すグラスを両手で押し返してロニは拒否する。