一、世界はそれを成り行きという
別にアルコール類が飲めないというわけではないのだが、そもそも今は、馬車の再手配が終わるまでの時間潰しで街に繰り出しているのを忘れてはならない。
昔の話だが、ちびちびゆっくり酒を飲むシルバに付き合っていたら夜が明けていたことがある。その再現はなんとしても避けたい。
だから、時間を見て店を出るよう切り出すのと、尻を叩く仕事はロニにあるのだった。
さし当たっては、おかわりの阻止。とロニが意気込んでいると、カウンター奥の扉から誰かが出てくるのが視界の片隅に映って、顔をそちらへ向けると少女がミルク入りグラスをトレイに乗せて運んでいるのが見えた。
カウンター越しにグラスを出すには身長が足りないようで、少女はぐるりとカウンターテーブルを回る。そしてロニの横に来てグラスをトレイごと差し出した。
「おたませしました!」
屈託のない笑顔と言い間違いが可愛らしい。
水色のワンピースの上に着た白いエプロンは大きさが合っておらず、裾が膝下あたりにまで達している。
「お手伝いかな? 偉いですね」
褒めてやると少女の表情がより一層明るくなる。
「おねえちゃんにはサービスしてあげる!」
言って少女はグラスを乗せたトレイをカウンターに置く。
「このミルクは冷たくておいしいけど、あったかいのもおいしいんだよ。あったかくする?」
おねえちゃんと呼ばれたことに対する嬉しさを噛みしめながら、ロニは答える。
「えっと、それじゃあ、お願いします」