一、世界はそれを成り行きという

「そんなカトレアですから商人は当時から大勢居たのでしょう。売り手が過多であったという話も聞いたことがあります。であれば、そこから新たな商業地を求めて旅立つのは至極自然なことではないでしょうか」

 言われて納得するロニ。

 確かにカトレアに腰を据えていた商人であれば、環境は微妙に違うにしても荒野での商売に少なからず心得があるはず。

 ただ、問題もある。

 物資の運搬についてだ。

 人間は徒歩で目的地へ向かうことができるが、物資を運ぶとなると話は別だ。しかも人が留まる休憩所・宿場町として機能しなければならないだけの物量を運搬するとなると、その労力は生半可なものではない。

 フリックは目を細めながら言う。

「当初は行商たちが仕入れて、その都度運んでいました」

「人力、ですか」

 途方もない話だ。

 たとえ近隣のカトレアから物資を運搬したとしても、三十キロメートル以上の距離はある。加えてファビッドキャニオン特有の起伏に富んだ地形。物資輸送における悪条件は揃いに揃っている。

「え、じゃあ建物の資材はどうしたんです? まさかそれも」

「いえいえバルフォア殿、それはさすがに人力では無理というものです。最初期においては、やはり建築材が運べなかったのでテントを張っていましたけれども、陸上を経路としない運搬方法はすぐに確立されました」

 陸路は使っていない。

 となると、一体どんな方法で?

 フリックは地面を指差しながら答える。

「水、にございます」

 言われてロニは気付く。

「なるほど、帯水層」

「ご存じでしたか。荒野であっても水はどこかに存在します」