一、世界はそれを成り行きという

 地中には帯水層と呼ばれる地下水が溜まっている層がある。

 帯水層は木々が生い茂る山地の地下を起点に、地層を斜めに横切るように平地の下を通過しているから、もしも水流の途中に大地の途切れ目があったとすれば、その地層の断面から水が漏れ出すこともある。

 実際、ファビッドキャニオン内には断崖絶壁から漏れ出す帯水層の流れを源流とする川がいくつも存在している。

「カトレア付近の地下を流れる地下水は、クライムサイドの横を流れる川に繋がっています」

 その水流を物資の搬送に利用したという訳である。

 川を活用したことで家屋が建ち、物資が流通し、町が潤う。

「まあ、ここまでの爆発的な人口の増加は、やはり交通の便(アイアンホース)が確立されたのが大きいところですけれどね」

 そこまで言ってフリックはハッとなってロニに向き直った。

「っとこれは失礼。少々話が長くなってしまいました」

「いえ、そんな」

「歳を取ると話が長くなってしまって参ったものです。ああ、それはそうとバルフォア殿」

「はい?」

「馬車を呼んでいたはずなのですが、待ち合わせの時間がズレてしまっていたようで」

 それを聞いてロニは、まさか列車の遅れが原因ではないだろうかと心苦しくなったが、しかしどうやらその事とは無関係のようで、連絡の伝達が不十分であったというのが理由らしい。

「大変申し訳ございませんが、少しお時間いただいてもよろしいでしょうか」

 すぐに手配を改めます。とフリックは続ける。

「あ、えっと、はい。僕は別に構いませんよ」

「ありがとうございます。では、少々失礼いたします」