一、世界はそれを成り行きという
「まあ、ここまでの都市になったのは二十年ほど前の話ですけれどね」
フリックはシルクハットを外しながら言う。
「この街は、もともと宿場町だったのです」
「宿場町?」
「ええ。ご存じかとは思いますが、クライムサイドは夕景の谷ファビッドキャニオンの中にあります」
ファビッドキャニオン。
最深約一五〇〇メートルの大渓谷が名称である。
「この谷は古くから観光地として有名でありまして、その壮観な夕景を見ようと来訪する観光客たちが後を絶ちませんでした。ですが、近くに町もなければ休憩所もない。そこで、行商たちが数十人集まって小さな宿場を作ったらしいのです」
また、当時は観光のルートも十分に確保されてはいなかったとか。
そういった、観光客の安全を考慮しなければならないという面から、宿場町の設立は宿泊食事の他に、谷の案内人を置くための場所を作るという意味合いも持っていたようだ。とフリックは続けて説明する。
しかしながら、こんな山間谷合の地帯に、都合よく行商が集まるのだろうか。
「それに関しましては、カトレアを拠点にする商人たちが中心となって動いていたのだと聞いております」
第二停車駅は、アイアンホースのために作られた停車駅ではない。元は首都と大陸南の港町を繋ぐ路線の中間地点として開拓された場所である。
「表面上は物資補給場所となってはいますが、駅の周辺地域の特産物を首都へ発送していたりしますから、事実上、物品の流通も担っているのです」
首都から港町間の中央路線はアイアンホース路線と違い、旅客車だけではありませんしね。とフリックは付け足す。