一、世界はそれを成り行きという
そんな鉄の馬を背に、ロニは大きく背伸びをする。
「んーーーーーー〜〜〜〜……っ」
ようやく終点。
窮屈な車内にいたせいで身体が縮こまっていたようで、あらゆる関節が背伸びと共にぽきりこきりと小気味いい音を立てた。
「おい、ロニ」
呼ばれて振り返ると、追うように降車してきたシルバが黒いトランクを差し出している。
「忘れてんじゃないよ。お前の荷物だろーが」
「あ、ごめんなさい」
「あと俺のも頼む。ちょっと車掌に挨拶してくるから先に外出てろ」
シルバの茶色いトランクは、ロニの物より二回りほど大きい。
受け取るとがちゃりと金属音がした。
中には工具が入っているらしい。とてつもなく重く、両腕で抱えるロニの足元はよたよたと覚束なかった。
そんな感じでやっとの思いで駅から出てトランクを置き、辺りを見渡す。
行き交う人々の数が多い。
駅前に建ち並ぶ店は人の出入りが頻繁で賑わいを見せる一方、街の遠方に見える断崖絶壁が夕日に照らされ、憂い気なオレンジ色に染まっている。
「ここが、クライムサイド……!」
あまりの雑多に唖然としてしまい、思わず独り言を漏らす。
人込みを知らない田舎者ではないが、ここまでの喧噪の中に降り立つのは初の経験である。
しばらく圧倒され、街の景色に見入っていると横から声が。
「すごい人込みでしょう」
そちらの方を見てみると、フリック・シーガルが隣に立っていた。
「バルフォア殿は、クライムサイドは初めてで?」
「はい、話には聞いてたんですけど……ここまで賑わってるとは」