序章 青天霹靂/マ王降臨
ビルに突き刺さったバイクのエンジン──燃焼を続ける心臓部は鼓動をそのままに、緩んだ接続部からなだれ込む大量の超可燃性の液体に着火。
瞬間、空間を震撼させる程の大爆発が巻き起こった。
「――――!?」
揺れる視界。
甲高い音を撒き散らしながら立て続けに砕け散るガラス片が宙を舞い、爆風でひしゃげた街灯が根から千切れて吹き飛ばされる。
咄嗟に背を向けてやり過ごしたサージタリウスは、背中に刺さったガラス片には一瞥もくれず、クルリと振り返って周囲の様子をうかがう。
朦々と立ち込める爆煙。気化したガソリンのツンとした匂いが鼻を刺す。
それまで微弱ながらも夜道を照らしていた月光は遮られていた。ただ、煙に巻かれているのは爆心地のビル周辺のみ。
約一〇メートルほど離れた距離にいるサージタリウスの視界は極めて良好であり、その表情は極めて冷静だった。
「酷いな。しかし、壊れるならば壊れればいい」
淡々と。冷ややかに。
まるで自分はあらゆる事象について全くの無関係だとでも言うように抑揚のない声でぽつりともらす。
それもそのはず彼にとって、サージタリウスにとって、佐山海峡(さやまかいきょう)という男にとって、この世界は作り物以外の何物でもなかったからである。
サージタリウスだけではない。電話口の向こうにいるジュリアにとっても、大通りを歩く人々たちにとってもそうだ。
周囲に横たわった街灯も。
ぐしゃぐしゃにひしゃげてしまった車も 轟々と燃え盛る炎も。月も。ビルも。家。川。木々。空気。空。全て、凡て、総て。
自分の、体でさえも。